みなさん,こんにちは。
弁護士法人みお綜合法律事務所の弁護士 吉山晋市(よしやま しんいち)と申します。
前回のコラムでは,「民泊」が普及してきたことに伴う規制緩和の動きとして,国家戦略特別区域の指定と自治体による条例制定についてお話ししました。
しかし,これらの規制緩和によっても宿泊日数や建物,設備の点で制限があり,「民泊」が「解禁」されたわけではありません。
第4回目のコラムでは,国家戦略特別区域の指定と自治体による条例制定以外の規制緩和の動きとして,旅館業法施行令の改正と新法の制定について解説したいと思います。
第1回: 民泊って何? 法律のプロが話題の民泊について答えます。
1 旅館業法施行令の改正
旅館業法は「法律」ですが,旅館業法施行令は「政令」です。「法律」は国会が制定するのに対し,「政令」は法律を施行するために内閣が制定するものです。
まず,「政令」である旅館業法施行令の改正について解説します。
第2回目のコラムで説明しましたとおり,「民泊」が「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」に該当すると旅館業を経営するものとして都道府県知事の許可を得る必要があります。
この旅館業には,
- ホテル営業(洋室客室が主体の宿泊施設)
- 旅館営業(和室客室が主体の宿泊施設)
- 簡易宿所営業(客室を多数人で共用する宿泊施設)
- 下宿営業(1か月以上の期間を単位とする宿泊施設)
の4種があります。
「民泊」は古民家やワンルームマンションを利用するので ③の簡易宿所として旅館業法の許可を得ることが多いと思います。しかし、従来,簡易宿所営業は,簡易宿所の面積基準が一律に「33平方メートル以上」とされていました。そのため,ワンルームマンションのような33平方メートルに満たない居室では,旅館業法の簡易宿所として認められなかったのです。
ところが,平成28年4月1日,旅館業法施行令の一部改正により「宿泊者が10人未満の場合は一人当たり3.3平方メートル」に緩和されました。
このように従来の面積基準では,33平方メートルに満たないワンルームマンションの居室を「民泊」に利用することはできませんでしたが,旅館業法施行令の改正によりワンルームマンションなどの居室が「民泊」に利用しやすくなったといわれます。
また,簡易宿所については,厚生労働省から通知を受けた多くの自治体がフロント(玄関帳場)を設置することが義務付ける条例を制定していました。
この点においても,平成28年3月30日,厚生労働省からの通知により,宿泊者が10人未満であれば必ずしもフロントを設置しなくてもよいことになりました。
このようにワンルームマンションを簡易宿所として「民泊」の営業を始めるには要件は緩和されたといえますが,まだ注意が必要です。
まず,立地の点で都市計画法によって用途地域が制限されます。すなわち,ワンルームマンションを「共同住宅」とするのか「ホテル,旅館」とするのかによって用途が変わるため,住居専用地域では用途変更ができません。
また,建物の点で建築基準法による制限もあります。客室の延べ床面積が100平方メートルを超えると,建物の用途を「ホテルまたは旅館」に変更するために「用途変更確認申請」を提出しなければなりません。100平方メートル未満であっても,自動火災報知機設備の設置が必要になります。
以上のとおり,旅館業法(施行令)の改正についてみてきましたが,いかがでしょうか。
「規制緩和」とは言うけど結局「民泊」を始めるのは難しいな,と思われた方が多いと思います。
そこで,「民泊」という営業形態での宿泊提供に関する法律,いわゆる「民泊新法」が制定されようとしています。
2.「民泊新法」とは
厚生労働省と国土交通省は,適切な規制の下でニーズに応えた民泊サービスを活用した宿泊サービスが推進できるよう,既存の旅館業法とは別の法整備に取り組み,民泊法案いわゆる「民泊新法」の制定を検討しています。
民泊新法による「民泊」は,家主が居住する「家主居住型」と家主が居住しない「家主不在型」に2つに分けて考えられています。
民泊新法による「民泊」には営業日数の上限が設けられる予定はあるものの,宿泊日数の制限がなく1泊からでも利用できる予定であること,フロントの設置義務もなく,居室の床面積の制限もないことから,民泊条例や簡易宿所としての旅館業よりも柔軟な対応が可能になることが想定されています。
次回は「民泊新法」について詳しくみていきたいと思います。
吉山晋市(よしやま しんいち)
弁護士法人みお綜合法律事務所 弁護士
大阪府生まれ 関西大学法学部卒業
弁護士・司法書士・社会保険労務士・行政書士が在籍する綜合法律事務所で,企業法務,不動産,離婚・相続,交通事故などの分野に重点的に取り組んでいる。