みなさん,こんにちは。
弁護士法人みお綜合法律事務所の弁護士 吉山晋市(よしやま しんいち)と申します。
最近、「民泊」という言葉を新聞やテレビでよく見かけませんか。「民泊」は空き家や空き室を有効に活用できるビジネスモデルとしても注目されていますが,「違法なんじゃないの」とか「手続が面倒くさそう」といった先入観で敬遠されがちです。
このコラムでは、いわゆる「民泊」について全6回にわたって解説していきます。
このコラムを通じてみなさまの「民泊」に対する理解が深まれば幸いです。
まず第1回目のコラムでは,
② どうして今「民泊」が注目されているのか
③「民泊」にはどんな問題点があるのか
について解説していきたいと思います。
①民泊って何だろう
みなさんは,「Airbnb」という言葉を見たことはありますか。
これは「エアビーアンドビー」と読み,旅行先での宿泊場所を求める観光客と,空き家や空き室を貸したいという貸主を仲介する大手サイトです(ちなみに,この「ビーアンドビー(b&b」は「bed and breakfast」の略称で,英語圏の諸外国では小規模な宿泊施設のことを意味します)。
この「Airbnb」のような仲介サイトの普及に伴い,個人が空き家や空き室を利用して,旅行客を宿泊させて収入を得る「民泊」というビジネスが広がり始めました。
「民泊」という言葉それ自体は日本には古くからあるもので,かつては農山漁村地域で大人や子供が体験型の宿泊をして宿泊料を払うものを意味していました。
しかし,このコラムでは,個人が空き家や空き室を利用して,旅行客を宿泊させて収入を得るビジネスモデルとしての「民泊」について解説していきたいと思います。
なお,厚生労働省のホームページでは「民泊サービス」について,「住宅(戸建住宅,共同住宅等)の全部又は一部を活用して宿泊サービスを提供すること」を指す,とされています。
② どうして今「民泊」が注目されているのか
このように「民泊」が注目され始めた背景には,訪日外国人の増加があります。
2015年の流行語として,訪日外国人が家電製品などを大量に購入するさまをあらわした「爆買い」という言葉が流行語大賞を受賞したように,訪日外国人の数は近年に増加の一途をたどるばかりです。
観光庁のデータによると,訪日外国人旅行者数は2015年で約1973万人,2016年は11月までで2198万人となっており,2011年からわずか5年で3倍以上に増えています。
このように訪日外国人旅行者数が急激に増えたにもかかわらず,既存の宿泊施設だけでは対応できず,宿泊施設が不足してきたのです。
観光庁が発表している「客室稼働率」のデータからも,大阪府を筆頭にした人気の観光地を中心に高い客室稼働率となっていることがわかります(http://www.mlit.go.jp/kankocho/news02_000287.html)
そこで,既存の宿泊施設以外に,個人が空き家や空き室を有償で貸し出す「民泊」というビジネスモデルが注目され始めました。
また,今後の展望としても,日本政府は,「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」(議長・安倍晋三首相)において,2016年3月,訪日旅行者数を2020年までに年間4000万人,2030年には6000万人を目標することを決定したことを発表しています。
2019年にはラグビーワールドカップが日本の各地で開催されますし,2020年には東京オリンピックが開催されます。日本政府の目標は皮算用ではなくむしろ現実味を帯びた数字といえるでしょう。
このように将来的にも訪日外国人の数はますます増えるでしょうし,他方で宿泊施設として大型ホテルなどをすぐに増やすことは難しいと思われることから,今後も訪日外国人に対する宿泊施設は不足する状況は変わらず,「民泊」への注目度は高まっていくと思われます。
③「民泊」にはどんな問題点があるのか
このように宿泊施設としての「民泊」のニーズが高まり,「Airbnb」のような仲介サイトが普及したことにより,日本でも個人で「民泊」を始める方が増えつつあります。
もっとも,これまで個人で訪日外国人の旅行者に対して有償で空き家や空き室を貸し出すことが珍しかったことから,「民泊」には様々な問題点があるのも確かです。
つまり,宿泊客であるゲストが訪日外国人である場合,当然,地理も文化も日本人とは異なることから生じる問題がまず考えられます。例えば,不案内な外国人旅行者が宿泊場所である物件がどこにあるかわからず道に迷ってしまったり,鍵の引渡がうまくできなかったりというトラブル。
トイレの使い方がわからず(海外旅行された方であればお気づきかと思いますが,トイレの様式は国によって様々です)トイレを詰まらせたり水浸しになったりというトラブルなどがあるようです。
また,日本ではまれだと思いますが,ゲストハウスで薬物を使用していたり犯罪の温床になっている,ゲストハウスの電化製品や家具など備品が持ち出されたり,ということもあるようです。
このような現場での問題点もありますが,「民泊」は一般のホテルと同じように宿泊場所を提供して宿泊料を払ってもらうものである以上,法律的にも様々な問題点があります。第2回以降のコラムでは法律的な問題点について詳しく解説していきたいと思います。
吉山晋市(よしやま しんいち)
弁護士法人みお綜合法律事務所 弁護士
大阪府生まれ 関西大学法学部卒業
弁護士・司法書士・社会保険労務士・行政書士が在籍する綜合法律事務所で,企業法務,不動産,離婚・相続,交通事故などの分野に重点的に取り組んでいる。