法律コラム

【連載】第3回 民泊が合法的にできる国家戦略について徹底解説

投稿日:2017年2月17日 更新日:

前回のコラムでは,「民泊」が旅館業法という法律に違反している可能性があるということをお話ししました。しかし,外国人旅行者は急増しており,都市部を中心に宿泊場所が不足しているという現実もあります。

第1回:  民泊って何? 法律のプロが話題の民泊について答えます。

第2回:  民泊って違法なの? 民泊が抱える法的な問題点とは

そこで,「民泊」の普及とともに,実態に合わせ規制を緩和する動きがあります。

第3回目のコラムでは,規制緩和の動きとして,国家戦略特別区域と条例の制定について解説していきたいと思います。

 

1.国家戦略特別区域

規制緩和の手段として,まず政府は国家戦略特別区域の制度を利用しました。

国家戦略特別区域とは,国が指定した対象区域に,それぞれの地域の目標や政策課題に応じて,従来の規制を緩和して国際的な競争に負けない計画を作りましょう,というものです。

平成26年5月の第1次指定では,東京都,神奈川県及び千葉県成田市が2020年の東京オリンピックを視野に入れ世界で一番ビジネスのしやすい環境を整備することを目標にして,規制改革事項のひとつとして外国人の滞在に適した宿泊施設の提供というものが定められました。

関西圏の大阪府,兵庫県及び京都府,そして,福岡県福岡市も外国人の滞在に適した宿泊施設の提供が規制改革事項とされました。

しかし,この「国家戦略特別区域」に指定されれば規制緩和されて,旅館業法の適用が除外されるというわけではありません。

「国家戦略特別区域」である各自治体において条例で「民泊」が認められる要件を制定すること,その要件を充たしたうえで許可申請をして特定認定を受けることが必要となります。

 

2.民泊条例の制定

では,国家戦略特別区域である自治体が外国人の滞在に適した宿泊施設を提供するために制定する条例,正式には「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業に関する条例」について解説していきましょう。

民泊条例では,

・国家戦略特別区域に対象物件があること

・賃貸借契約およびこれに付随する契約(定期借家契約)の締結

・滞在期間が2泊3日以上であること(当初は6泊7日以上)

・居室が国家戦略特別区域法施行令12条3号の要件を満たすこと

・ひとつの居室の床面積が25㎡以上あることや換気,採光,照明,防湿,排水,暖房及び冷房の設備を有すること,台所,浴室,トイレ及び洗面設備を有すること

・外国語の案内の設置

を定める必要があります。

国家戦略特別区域の中でも,東京都大田区では,平成28年1月,全国に先駆けて民泊条例が施行されました。また,大阪府,大阪市,北九州市でも条例が施行されています。

たしかに,旅館業法では一定数以上の客室数が必要であったり,フロント設備が必要であったりとしたことからすれば規制は緩和されています。また,当初は最低6泊7日以上とされていた滞在期間も最低2泊3日以上と緩和されました。

しかし,東京都大田区の条例では実施地域から住居専用地域が外されていたり,大阪府の条例では民泊施設であってもホテル・旅館に類する消防用防火設備や防火管理体制を満たすことが求められており,条例で認定されるためのハードルは決して低いものではありません。実際に,これらの条例に基づく許可申請の件数は,東京都大田区で28施設(平成28年1月25日時点),大阪府は4施設(平成29年1月30日時点)であることからもハードルの高さがおわかりいただけると思います。

 

このような国家戦略特別区域の指定と自治体による条例制定以外にも規制緩和の動きはあります。そこで,次回は旅館業法施行令の改正と新法の制定について解説したいと思います。

 

■執筆者紹介
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吉山晋市(よしやま しんいち)
弁護士法人みお綜合法律事務所 弁護士
大阪府生まれ 関西大学法学部卒業
弁護士・司法書士・社会保険労務士・行政書士が在籍する綜合法律事務所で,企業法務,不動産,離婚・相続,交通事故などの分野に重点的に取り組んでいる。

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