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こんなはずじゃなかった! ホテル不動産投資で失敗しないための判断基準

投稿日:2017年10月24日 更新日:

「ホテルや民泊の投資を検討していてアドバイスをしてほしい」

ここ1年でこういったホテル不動産に関する相談をいただくことが急激に増えてきました。

 

背景にあるのは、不動産価格の高騰により投資用不動産(アパートやビルなど)の利回りが年々低下していること。また、ホテル不動産の供給数が足りていないため狙い目だということかと思います。

また、ホテル不動産は住宅やオフィスとは異なり、少子高齢化や人口減少に直接影響されないことも中長期的な魅力なのかもしれません。

 

しかし、私に相談いただく方のほとんどが、ホテル不動産の投資をやったことがなく、「絵に描いた餅」と言わざるを得ない事業計画を組んでいるというのが実情です。

 

また驚くべきことに、これは個人投資家だけではなく、本来なら不動産投資のプロであるはずの大手不動産会社や不動産投資ファンドですら、そういった状態のところが多いのです。

そうなってしまうのは、ホテル不動産というものが、彼らが得意とする賃貸系不動産とはルールが全く異なり、畑違いの領域ということなのかもしれません。

 

本コラムでは、ホテル不動産投資をする上で重要となる判断材料や指標を紹介していきたいと思います。

 

ホテル不動産の投資方法は主に3つ

 

ホテル不動産への投資を考えられている方がとれる投資方法は、主に以下の3つかと思います。

それぞれに幾つか代表的な注意点があるので、順に紹介していきます。

 

  1. 新築

土地を購入、もしくは保有している土地に新築で宿泊施設を建てる方法です。

新しく建てるため、かなり自由に設計することができます。

但し、計画してから実際に運営を開始するまでかなり時間を要するため、その間に市場の状況が大きく変化するかもしれないというリスクが伴います。

また、昨今の建築ブームにより建築費が高騰しているため、事業計画をシビアに検討することをオススメします。

 

  1. 用途変更(コンバージョン)

もともとは共同住宅やオフィス、保養所や寮などで使われていた物件を、宿泊施設に用途変更(コンバージョン)する方法です。

こちらは新築に比べ割安で投資できる可能性が高く、特に最近では人気となっているように感じます。

但し、用途変更は様々な落とし穴が存在しているため、予想を遥かに超える費用が発生したり、最悪の場合は用途変更すらできなかったという事例も多く聞きます。

検査済み証の有無、用途地域や容積率の制限がないかの調査はもちろんの事、消防設備等の追加費用や用途変更中の機会損失費用など、どの程度の予算が必要かといったことまで考えなければなりません。

こちらも専門家と相談して購入検討することをオススメします。

 

  1. 買収

最後は、既に旅館業許可を取得済みで運営している(または運営を開始する)物件を購入するという方法です。

新築や用途変更とは異なり、自分で旅館業許可を取得する必要がないため、運営までのハードルが低いのが特長です。

確認しないといけないこととして、既存の運営会社(オペレーター)が引き続き運営が可能か、可能でないなら他に運営ができそうな会社がないかといったことがあります。

また、既に運営されている物件の場合は、可能な限り運営実績を提供してもらい、買収後にそれ以上に伸ばせそうなのかどうか検討する必要があるでしょう。

 

ホテル不動産投資は何をみないといけないのか?

 

続いて、ホテル不動産に投資する際に、目安となる判断指標について紹介したいと思います。

今回は、投資規模も小さく、公開されているデータも豊富なビジネスホテルを例にして考えたいと思います。

以下の表は、東京都、大阪府にあるビジネスホテルをリスト化したものです。

項目としては、取得価格(百万円)、延べ床面積(m2)、単価(百万円)/m2、部屋数、1部屋あたり取得価格(百万円)、1部屋あたり面積(m2)、RevPAR(円)、ADR(平均客室単価)、稼働率、Cap Rate、竣工年度となっています。

こちらも順に解説していきます。

 

■取得価格(百万円)

これらはREIT(不動産投資信託)がビジネスホテルを取得した価格を表しているのですが、ざっくりと10億円〜40億円といった価格帯となっています。

※通常の不動産購入とは異なり、不動産信託受益権の取得というケースが多いですが、解説を単純化するために、まとめて取得価格としています。不動産信託受益権についてはこちらを参照ください。https://www.christy.co.jp/shintaku/

 

■延べ床面積(m2)・部屋数・1部屋あたり面積(m2)

延べ床面積は全て1,150平米(350坪程度)以上でした。また部屋数は、55部屋〜110部屋のものが多く、延べ床面積から部屋数を割った1部屋あたり面積は、18平米前後となりました。

ビジネスホテルのような宿泊特化型ホテルでは、低層階に少し飲食店が入っていたりする程度で、ほとんどは客室となっています。

1部屋が約12〜13平米であることを考えると、延べ床面積を、客室とその他のスペースと分けた場合、2/3が客室、1/3がその他(フロント・飲食スペース・廊下・エレベーターなど)となるようです。

また、運営開始までの準備費用や、運営での人件費等の固定費を考えると、部屋数として55部屋を超える規模でないと大きな収益は生みにくいと言えるかもしれません。

 

■平米あたり取得単価(百万円)、1部屋あたり取得価格(百万円)

では、平米あたり、1部屋あたりでどの程度の取得価格であれば投資として成立するのでしょうか。

こちらはエリアによってかなり差がでました。

東京都心では、平米単価が110万円〜140万円、部屋単価で1,800万円〜2,200万円程度。

大阪都心では平米単価が50万円程度、部屋単価で1,000万円〜1,500万円程度となっています。

実際にこういった案件の投資に関わっている立場から考えると、この範囲であれば、投資を検討してみても問題ないかと思います。

1つ注意点としてあるのが、住宅やオフィスとは異なり、ホテルとして運営する場合は、土地・建物の他に、改装・什器備品・システムなど追加費用が相当必要となりますので、それを考慮した上で購入を検討しなければなりません。

 

■RevPAR(円)、ADR(平均客室単価)、稼働率、Cap Rate(キャップレート)

ホテルを運営する上で「そのホテルの販売が上手くいっているかどうか」を図る指標として用いられるのがRevPAR(Revenue Per Available Rooms)という指標です。

RevPARとは以下のように、平均客室単価と客室稼働率を乗じた値と同じです。

RevPAR = ADR(客室平均単価) × OCC(客室稼働率)

また、RevPARを365(日)と客室数で乗じることで、そのホテルの(客室部門)の年間売上を概算することができます。

では、表の解説に戻りたいと思います。

RevPARでは概ね6,500円〜8,500円程度となっています。しかし、巣鴨の施設が4,623円となっているように、立地があまり良くない施設であればRevPARも下がるということを考慮した上で購入を検討しなければなりません。

また最後にCap Rate(キャップレート)についてですが、こちらも解説を単純化するために、還元利回りと考えて良いかと思います。

つまりは、年間純収益を投資金額で割った値となります。

不動産投資信託の場合は、オペレーターから受け取る固定賃料+変動賃料(案件によって異なります)が収益として入るため、実際に自分で運営までする場合はもっと利回りが高いことが多いかと思います。

これらのことを前提として、近年のホテル投資のキャップレートは4%〜5%となっています。

 

簡易宿所への投資は熱いのか?

最近では、旅館業法の中でも比較的取得が容易な簡易宿所を取得して、ゲストハウスやホステルとして個人で投資される機会も増えてきたのではないでしょうか。

ビジネスホテルの場合、最小の投資額として10億円程度は必要となりますが、簡易宿所であれば、最低1,000万円程度から投資することが可能になってきました。

実際に、京都市では、平成28年での旅館の新規取得件数が5件なのに対し、簡易宿所は813件もありました。

では、表の解説に入っていきたいと思います。

ゲストハウスやカプセルホテルでチェーン展開をしている大手が運営する施設を中心にリスト化しました。

ビジネスホテルとは異なり、公開データが乏しいため、ADR(平均客室単価)は公式サイトやOTAに掲載されている価格を基に、稼働率は都道府県単位での平均稼働率を基にして算出しました。

ですので、実際のデータからは20%程度の乖離があるものとして、参考にしていただければと思います。

 

注目すべきところとしては、以下のようなことでしょうか。

・簡易宿所であっても延べ床面積は1,000平米程度あるところが多い

・1部屋(1人)あたり面積は8平米程度とビジネスホテルの2分1以下

・RevPARは2,000〜3,000円程度(データの乖離を考えると1,500円〜4,000円程度)

 

実際に、取得のハードルが低い簡易宿所が乱立しているような雰囲気は最近になって出てきており、ちらほら稼働率が下がってきているという噂を耳にします。

ですので、ドミトリー型のゲストハウスなどを運営する場合は、RevPARで1,000円台になることも想定して、事業計画を組んだ方がいいのではないかと考えています。

 

民泊投資はホテル投資とどう違うのか?

現在(2017年10月)、合法的に民泊投資をする方法として事例が多いのは、先ほど紹介した簡易宿所、もしくは大阪市を始めとした特区民泊(国家戦略特別区域法に基づく旅館業法の特例)になるかと思います。

民泊は通常1室からでも運営が可能なのですが、先ほど紹介したように、ホテルや簡易宿所では収益の観点から1,000平米以上の施設が普通です。

では、なぜ民泊は1室からでも収益が生まれるのでしょうか?

詳しい話は別の機会にしたいと思いますが、テクノロジーの発展や宿泊客側の文化が変化していることが大きな要因だと考えています。

まず民泊ではほとんどのケース、フロント設備もなく、実際のチェックインの立会いも行っていません。

自動チェックインと呼ばれる仕組みも徐々に整備されてきており、まるで交通機関を利用するような手軽さで宿泊ができるようになってきています。

一昔前のホスプタリティを重要視する文化ではそういったことはありえなかったかもしれませんが、時代が変わってきたのでしょう。

民泊は、人件費などの固定費を最大限までカットすることで、部屋数が少なくても収益が出るのです。

本日のまとめ

ホテル不動産の投資方法は大きく3つありました。

・新築

・用途変更(コンバージョン)

・買収

それぞれにメリット・デメリットがありますので、どういった投資方法が自分、自社の戦略と合いそうなのか見極めて投資検討をすることが望ましいでしょう。

 

ホテル不動産投資はどこを見るべきか

・延べ床面積が十分にあるか

・延べ床面積あたりの取得単価が高すぎないか

・RevPAR(収益)がしっかりありそうなエリアなのか

 

事業計画を組む際に、最低でも上記の部分は塾考して投資を検討しましょう。

但し、今回ご紹介したポイントも100あるうちの代表的なものでしかないため、更に様々なことを考慮した上で判断を下していかなければなりません。投資を検討する際には、是非、専門家に頼ることをお勧めします。

ホテル投資はそういった落とし穴も多いですが、うまくいけば大成功する可能性も十分に秘めています。

弊社でも、ホテル不動産の購入から用途変更・施工・運営までトータルサポートが可能ですので、興味がある方は以下からご連絡頂ければ幸いです。

 

■執筆者紹介
 
留田 紫雲 (とめだ しゅん)
民泊総合研究所 シニアフェロー
不動産ディベロッパーにて、外国人賃貸集客事業の責任者を経て、2015年11月に不動産×ITの事業展開する株式会社VSbiasを創業。テクノロジーの力で空間資産を解明・最大化させることをミッションとする。20167 同社を株式会社メタップスに事業売却し、最年少子会社社長として事業を推進している。

 

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