法律コラム

【連載】第6回 いよいよ民泊が解禁? ルールに則ったおもてなしをするために

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前回のコラムでは,「住宅宿泊事業法案」,いわゆる民泊新法の概要についてお話ししました。

第6回目の今回は,民泊新法に関するその後の経過とともに,

①マンション居室での民泊の問題点
②合法・違法の境界線
③無許可営業に対する規制

について解説していきたいと思います。

▼連載記事

第1回:  民泊って何? 法律のプロが話題の民泊について答えます。

第2回:  民泊って違法なの? 民泊が抱える法的な問題点とは

第3回:  民泊が合法的にできる国家戦略について徹底解説

第4回:  ある規制の緩和によって合法的に民泊がやりやすくなった

第5回: 民泊新法とは?観光立国に向けて遂に新たな仕組みが生まれる

 

1民泊新法について

国土交通省は,2017年3月10日,「住宅宿泊事業法案」が閣議決定されたことをプレスリリースしました。

http://www.mlit.go.jp/kankocho/news06_000318.html

閣議決定とは全閣僚による意思決定をいい,これにより「住宅宿泊事業法案」が内閣総理大臣から国会に提出されることになります。

今国会での成立を目指すとされ,早ければ2018年1月にも施行される見通しのようです。

今回のプレスリリースにより,「住宅宿泊事業法」の法律案も明らかになりましたが,概要は前回のコラムで解説した内容とほぼ相違はありませんでしたので,法律案の詳細について今回は割愛したいと思います。

 

2 マンション居室での民泊

「住宅宿泊事業法」で定められる「住宅」とは,

  • 当該家屋内に台所,浴室,便所,洗面設備その他の当該家屋を生活の本拠として使用するために必要なものとして国土交通省令・厚生労働省令で定める設備が設けられていること
  • 現に人の生活の本拠として使用されている家屋,従前の入居者の賃貸借の期間の満了後新たな入居者の募集が行われている家屋その他の家屋であって,人の居住の用に供されていると認められるものとして国土交通省令・厚生労働省令で定めるものに該当すること

のいずれにも該当する家屋をいいます(法律案第2条1項)。

すなわち,民泊は戸建て住宅のみならずマンションの居室も対象になります。

もっとも,マンションの居室で民泊を実施するには「住宅宿泊事業法」とは別の注意が必要です。

たしかに,マンションの居室部分は専有部分であり,専有部分の所有者(区分所有者と言います)が使用収益できるので,賃貸に出すのと同じように「民泊」として活用することもできるように思えます。

ところが,分譲マンションでは管理規約が定められています。

一般的な管理規約として国土交通省が公表している「マンション標準管理規約」では,専有部分は専ら住宅として使用し,他の用途に供してはならないとされています。そこで,「民泊」として活用することが「専ら住宅として使用」にあたるのか,「他の用途に供する」ことにあたるのか,が問題になるのです。

この点について,国土交通省は,マンション標準管理規約と同様の規約があるマンションにおいて民泊を実施するには管理規約の改正が必要であるという見解を明らかにしています。

また,平成28年1月,マンション管理組合が専有部分を民泊として利用していた区分所有者に対して民泊としての利用の差し止めを求める仮処分を申し立て,大阪地方裁判所が民泊としての利用を差し止める仮処分決定を出しています。

このように,区分所有者が分譲マンションの居室を民泊として利用する際には,当該マンションの管理規約でどのように定められているのか注意が必要です。

また,マンション管理組合からすると,分譲マンションにおいて民泊が実施されると不特定多数の旅行者などが出入りすることで共有部分の利用などに問題が生じることも考えられます。民泊を実施するのか禁止するのか,実施するとしてどんな場合に認めるのか,管理規約について十分検討されたほうがよいでしょう。

 

これに対して,賃貸マンションの場合はどうでしょうか。自らが賃借人になっているマンション居室を貸主に無断で民泊として利用することに問題はあるでしょうか。

民泊は賃貸借契約ではなく宿泊契約なので形式的には転貸借(民法612条,613条)には該当しません。しかし,貸主からすると不特定多数の旅行者などが出入りする民泊は賃貸借契約においては想定していないのが通常です。そうすると,賃貸人と賃借人との信頼関係を破壊する行為として無断転貸と同じように賃貸借契約の解除原因になる可能性はあると考えられます。

 

3 合法・違法の境界線

早ければ2018年1月にも「住宅宿泊事業法」が施行される見通しとはいえ,それまでは「民泊」も全面的に解禁されているわけではありません。

そのため,「住宅宿泊事業法」の施行までに「民泊」を実施しようという方は必ず法律上のルールに従って「民泊」を実施することが肝要になります。

この点,宿泊料を受けて反復継続して民泊を実施している場合には旅館業法の許可が必要と考えたほうがよいでしょう。この場合の「宿泊料」は宿泊サービスの対価と同視できるものを含み名称に関わりませんので注意が必要です。

 

4 無許可営業に対する規制

旅館業法の許可を得ずに「民泊」を実施した場合,旅館業法違反として6か月以下の懲役または3万円以下の罰金が科されることがあります。

2015年には京都市内のマンションを無許可で宿泊をさせたとして,旅行業法違反の疑いで旅行業者,宿泊施設運営業者,不動産会社会社員が旅館業法違反(無許可営業)の疑いで書類送検されました。

2016年には,大阪市生野区で賃貸マンションを無許可で貸し出した旅館業法違反の疑いで,韓国籍の女性ら計3人が書類送検されています。

 

以上6回にわたり,「民泊」について解説させていただきました。

これまでグレーゾーンの多かった「民泊」ですが,今後は「住宅宿泊事業法」の施行により一気に「民泊」は広がる可能性はあります。

とはいえ,都道府県知事への届出,住宅宿泊事業の適正な遂行のための措置などルールは種々ありますし,宿泊者による利用の場面でのトラブルが生じる可能性は否定できません。

 

2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。

ルールに則った「民泊」サービスを提供して,「民泊」を利用する方たちに「また日本を訪れたい」と思ってもらえるような「おもてなし」ができるようにしたいですね。

 

最後までお読みいただき,ありがとうございました。

■執筆者紹介
05090807
吉山晋市(よしやま しんいち)
弁護士法人みお綜合法律事務所 弁護士
大阪府生まれ 関西大学法学部卒業
弁護士・司法書士・社会保険労務士・行政書士が在籍する綜合法律事務所で,企業法務,不動産,離婚・相続,交通事故などの分野に重点的に取り組んでいる。

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