住宅宿泊事業法(通称 民泊新法)が閣議決定・国会提出されるなど、近年ますます観光立国に向け民泊の活用が推し進められています。
一方で、法整備が進む中で参入者が増加してきたことで、現実的に民泊運営によって利益を出すことが難しくなっていくとも一部では考えられています。このような条件下で、改めてどのような民泊物件から高い利益を獲得できるのか考察する必要があるでしょう。
本レポートでは、収益性を決定する大きな要因の一つである「物件のエリア」にフォーカスした分析を行いました。
今回は物件数が10,000件以上ある東京23区に絞り、区別に比較することで高い利益が見込まれる地区がどこであるかを見ていきたいと思います。同じく、場所に着目した過去の分析は以下のものです。合わせてご覧ください。
まず、利益の定義ですが シンプルに
利益 = 売上 ー 費用
と考えます。
例えば月50万円の利益があったとしても、家賃などの費用が51万円であった場合、利益はマイナスとなり、投資としては失敗を意味します。本レポートでは、民泊でゲストが支払う宿泊料金や清掃費を売上、家賃と清掃料・通信費・光熱費・サイト手数料など諸費用を足し合わせた金額を費用とします。つまり以下のような式になります。
利益 = 売上(宿泊料金+清掃料金) ー 費用(家賃+諸費用)
便宜的に諸費用は1ヶ月3万円と仮定すると
利益 = 売上 ー 費用(家賃+3万円)
になります。
図1: 東京23区
図1(2016年、1R) 縦軸:平均収益、横軸;家賃相場、円の大きさ:民泊の物件数
出所) 平均収益、物件数:Spike, 家賃相場: Home’s より作成
注) サンプル数の問題より練馬区は非表示
図1は、東京23区すべてを比較したものになります。縦軸が民泊一件当たりの平均収益、横軸は家賃相場です。また、円(バブル)の大きさは民泊物件数の多さを示しております。
グラフ内部に走る黒い斜線(以下、損益分岐線)は利益がゼロ(売上=家賃+3万円)を示す線です。つまり、円の中心が損益分岐線より上なら平均的に利益が見込めるエリアということです。
さて、実際に図1を見ると、まず民泊物件数が多い新宿区と渋谷区は損益分岐線を上回っていることがわかります。一方で港区や中央区などは高い売上が見込めますが、家賃相場との比較から利益が出にくくなっていると考えられるでしょう。
さらに詳細に比較するため、図1を平均収益上位8区とそれ以外に分けたグラフが図2と図3です。
図2: 平均収益上位8区
図2(2016年、1R) 縦軸:平均収益、横軸;家賃相場、円の大きさ:民泊の物件数
出所) 平均収益、物件数:Spike, 家賃相場: Home’s より作成
注) サンプル数の問題より練馬区は非表示
図2を見ると物件数は多くないものの、千代田区が損益分岐線を上回っていることがわかります。東京駅や皇居のある千代田区は、渋谷区、新宿区、港区に近く、家賃相場も高いですが、外国人からの人気から安定した売上が見込まれます。
同じように物件数があまり多くない目黒区や杉並区も収益性が高いという結果が出ました。これらの地域は物件数の少なさから分析的な有意性が低いですが、穴場地域となりえるかと思います。
一方で、浅草寺や上野など外国人に人気の観光スポットがある台東区は損益分岐線を下回っております。外国人に人気なエリアではあっても、物件数が多くなってしまうと利益を出すことが難しいのかもしれません。
図3: 平均収益上位8区以外
図3(2016年、1R) 縦軸:平均収益、横軸;家賃相場、円の大きさ:民泊の物件数
出所) 平均収益、物件数:Spike, 家賃相場: Home’s より作成
注) サンプル数の問題より練馬区は非表示
一方で図3は平均収益では下位ですが、豊島区や江戸川区、足立区などは損益分岐線より中心が高く、狙い目と言えます。
豊島区は池袋を中心とする観光エリアや家賃の低さが収益性が押し上げています。足立区は物件数が少なく、いくつかの高収益物件に平均が引き上げられている可能性も考えられますが、競合が少なく穴場であると考えられます。高収益物件の内装やアメニティを参考にすれば、同様に高収益が見込まれるでしょう。
文京区や品川区はほぼ損益分岐線上に位置しており、アメニティや駅からの距離によっては高い利益を得られる可能性もあります。
≪まとめ≫
本レポートでは東京23区にある民泊物件の収益性を分析をしました。その結果、平均的に利益が出やすいと考えられる地区は千代田区、目黒区、渋谷区、新宿区、杉並区、豊島区、江戸川区、足立区の8区であるとわかりました。
ただし、同じ区内であっても人気・不人気のエリアがある可能性も高いため、実際に新規で物件を取得して民泊を開始される際はより詳細なエリア分析をされることを推奨します。
また、民泊の収益性はエリアだけでなく、内装・アメニティのセンス、広さ、写真の綺麗さ、清潔度、ホストのおもてなしといった様々な要素で複合的に決定されます。
そのため、たとえ損益分岐線を下回る地域であっても、高い利益を出している物件も存在します。実際の運営では、エリアだけでなく総合的に勝てる戦略を考えることが重要となるでしょう。
留田 紫雲 (とめだ しゅん)
民泊総合研究所 シニアフェロー
不動産ディベロッパーにて、外国人賃貸集客事業の責任者を経て、2015年11月に不動産×ITの事業展開する株式会社VSbiasを創業。テクノロジーの力で空間資産を解明・最大化させることをミッションとする。2016年7年 同社を株式会社メタップスに事業売却し、最年少子会社社長として事業を推進している。